2018.02.18
時代の風~第17回 変われるか高等教育(2018年2月18日)
変われるか高等教育 「改革」、大学も企業も
日本の国立大学の財政は、国から支給される運営費交付金と、学生からの授業料など自己収入、そして競争的資金でまかなわれている。運営費交付金は、国立大学が法人化されてから10年、一貫して毎年1%ずつ削減されてきた。その影響で、大学では定年教授の後任不補充、若手を中心に任期つきポストへの転換などが続いている。
大学政策策定には、有識者会議という集まりが大きな発言力を持っているようだ。そこでは「日本には大学が多すぎる」「大学の経営努力が足りない」などという意見が非常に強く表明され、「さらなる大学改革を」という掛け声一辺倒である。内閣府の文書には「大学の運営から大学の経営へ」という言葉も出てくる。
しかしながら、私が見る限り、有識者会議の提案は、いろいろと多角的なデータで国際比較などをした結果として提案されているようには見えない。そこで、OECD(経済協力開発機構)の統計を基に、自分なりにいろいろと調べてみた。
日本の大学は本当に多すぎるのか? 日本の国立大学は86、私立大学を入れると780ぐらい。一方、アメリカの大学数は2629。これを人口1億人当たりの大学数に換算すると、日本は598、アメリカは848。同様に韓国は848、ドイツは451、イギリスは269となった。ただし、単純比較は難しい。各国の大学制度も大学のあり方も、社会での受け入れられ方も千差万別だからだ。欧州では、実務的な職業訓練にかかわる教育が、いわゆる大学と並行して整備され、どちらも高等教育の受け皿だ。実務訓練校が大学より下に見られるということもない。
大学進学率も、公表されている数字には問題がある。OECDでは、入学者の人口に占める割合を年齢区分ごとに出しているが、そこには留学生も含まれているので、たとえば留学生が非常に多いオーストラリアは94・9%となる。同じ計算法で日本は49・7%。逆に、25~34歳人口における大卒者の比率を見ると、日本は60・1%、オーストラリアは49・3%となる。
興味深いのは、大学に初めて入学した人に占める25歳以上の割合だ。2012年時点で最高はイスラエルの34・9%。スウェーデンが25・9%、アメリカが23・9%、イギリスが18・5%と、欧米では20~25%が主流である。一方、日本は断然低く、文部科学省の資料によると1~2%にとどまる。働きながら学ぶ、いわゆる「パートタイム学生」も、欧米では30~50%存在するのだが、日本ではどうだろう?
国立大学の経営努力が足りない(から政府支出を削る)と言うが、政府支出における大学への公的教育費の割合(14年)は、ニュージーランド5・4%、スイス4%、アメリカ3・5%、イギリス3%、ドイツ3%に対して日本は1・8%である。もっと一般に、公的教育費の国内総生産(GDP)比を15年で比べると、イギリスの5・7%、アメリカの5・4%、スイスの5・1%に対して、日本は3・6%とこちらも低い。
一方、企業なども含めた研究開発費を15年のGDP比で見ると、日本は3・3%で、イスラエル、韓国に続いて多い。研究者1人当たりの研究開発費という項目でも日本は17位に入っている。
データから見えてきた結論の一つは、日本は、研究開発にはそれなりに支出しているが、高等教育には国がお金をしぶる国だということだ。もう一つは、日本の大学進学率はそこそこ高く、学士号取得者も多いが、高等教育のレールが1本しかない。つまり大学とは18歳で入学し、22歳で卒業して、二度と戻って来ない場所ということだ。
首相官邸に「人生100年時代構想会議」が作られ、一生学び直しのできる社会にしようと掲げられているが、このままでは、それは無理だ。
変えるには、「新卒」を一括して4月に採用し、途中で抜けたり復帰したりすることはまず無理、という企業の採用方針や働き方を、何よりも改革しなければならない。現状では、海外の大学を10月に卒業した人や、途上国で働いていた人なども不利になる。働きながら学ぶのも普通ではない。大学改革はもちろん必要だが、大学改革が生きるには「大幅な働き方改革、企業改革」が必須である。
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