2021.07.16
星の"たまご"は"食事"をするのか?
研究論文助成事業 採択年度: 2021
天文科学専攻 竹村英晃
天文科学コース
The Core Mass Function in the Orion Nebula Cluster Region: What Determines the Final Stellar Masses?
掲載誌: The Astrophysical Journal Letters 発行年: 2021
DOI: https://doi.org/10.3847/2041-8213/abe7dd
(左)縦軸は各質量範囲に入る分子雲コアや星の数、横軸は分子雲コアや星の質量をそれぞれ表しています。それぞれ、分子雲コアの質量関数(CMF)と星の初期質量関数(IMF)と呼ばれます。IMF は先行観測 (Da Rio, N. et al. 2012, ApJ, 748, 14) の星のカタログから導出しました。右下がりの直線は、CMFとIMFの最大値から2質量区間以降の質量が大きい側について最小二乗法で近似直線を求めた結果です。(右)これまでに観測されてきたCMFとIMFの関係の模式図です。先行観測では CMF を質量が小さくなる方向に平行移動すると IMF を再現できると考えられていましたが、本研究では CMF と IMF が同程度の質量で最大値をとることを明らかにしました。
銀河の中には分子雲と呼ばれる、冷たいガスからなる雲のような天体があります。そして、分子雲の中に点在する物質密度が高い領域である「分子雲コア」が星の"たまご"です。「分子雲コア」は様々な質量を持ち、その分布は「分子雲コアの質量関数」と呼ばれています。誕生する星の質量も様々で、その質量分布である「星の初期質量関数」は、天の川銀河では領域によらず、ほぼ同じであることが知られています。二つの質量関数は似た形であることが知られていますが、同じ領域において分子雲と星の観測データが揃うことは難しく、比較した例はほとんどありませんでした。
本研究では、オリオン大星雲に付随する分子雲において、二つの質量関数を比較して星形成過程の解明に挑みました。まず、野辺山にある45m電波望遠鏡と米国のCARMA(カルマ)望遠鏡のデータを合成することによって得られたこれまでにない精密な電波画像を用いて分子雲コア探査を行い、分子雲コアの質量関数を求めました。そして、別の先行観測で得られた星のカタログから星の初期質量関数を導出しました。その結果、両者は似た形状を持つものの、分子雲コアよりも星の方が、質量が大きい傾向にあることがわかりました。
さらに、星の赤ちゃんである原始星の活動によって分子雲コアの物質の一部が吹き飛ばされてしまうことが数値シミュレーションより示されています。以上のことを考慮すると、分子雲コアは外部から質量をさらに獲得し、成長する必要があります。これは、星の"たまご"が"食事"をし、成長することを意味します。これは従来の星の形成シナリオとは大きく異なるもので、これまでになく高い空間分解能で同一の領域のCMFとIMFを比較したからこそ得られた結果です。我々は今後、分子雲コアへの質量流入が他の領域でも普遍的に成り立つ過程なのかを調べていく予定です。
書誌情報
- タイトル: The Core Mass Function in the Orion Nebula Cluster Region: What Determines the Final Stellar Masses?
- 著者: Takemura, H., Nakamura, F., Kong, S., et al.
- 掲載誌: The Astrophysical Journal Letters
- 掲載年月: ApJL, 2021
- DOI: https://doi.org/10.3847/2041-8213/abe7dd
物理科学研究科 天文科学専攻 竹村 英晃