2020.06.10
95億年前の宇宙の"大都会"は銀河ガスの化学組成にどんな影響を及ぼすのか?
研究論文助成事業 採択年度: 2019
天文科学専攻 竝木茂朗
天文科学コース
A Spectroscopic Study of a Rich Cluster at z = 1.52 with Subaru and LBT: The Environmental Impacts on the Mass─Metallicity Relation
掲載誌: The Astrophysical Journal 発行年: 2019
DOI: 10.3847/1538-4357/ab1b6c
研究概要
宇宙には私たちの住む「天の川銀河」以外にもたくさんの銀河があります。銀河がたくさん集まった、銀河の大都会のことを「銀河団」と呼びますが、そのような場所では他の場所に比べて銀河の性質が異なることがこれまでの研究からわかっています。その一方で、銀河中の元素の組成比(化学組成)は銀河団の中にあっても影響を受けていないことが知られています。では過去、すなわち遠方の宇宙ではどうでしょうか。過去の宇宙の銀河団における銀河の化学組成の研究はいくつかありますが、観測の難しさからはっきりとしたことはいまだにわかっていません。これを解決するために、私たちは国立天文台ハワイ観測所のすばる望遠鏡と米国アリゾナ州にあるLarge Binocular Telescope (LBT)を用いて約95億年前の銀河団にある銀河を分光観測し、その化学組成について調べました。銀河の化学組成は銀河の進化過程、すなわちその銀河がこれまでどのように星を作って来たかに大きく影響されるため、これを調べ比較することで銀河の進化過程に違いがあるかどうか調べることができます。
結果として、この銀河団では銀河の化学組成は同じ時代の他の場所と変わりませんでした。したがって、この銀河団では銀河の化学組成に関わるプロセスは現代のものと同じようなバランスを保っていると考えることができます。 今回の研究は一つの銀河団に対して行いましたが、宇宙全体での傾向を調べるには多くの銀河団と多くの銀河の観測が必要です。現在、国立天文台を含む多くの研究機関によってすばる望遠鏡の新しい広視野多天体分光装置(PFS: Prime Focus Spectrograph)の計画が進められており、PFSによってこの問題が解決されることが期待されます。
A Spectroscopic Study of a Rich Cluster at z = 1.52 with Subaru and LBT: The Environmental Impacts on the Mass─Metallicity Relation
Namiki, Shigeru V.; Koyama, Yusei; Hayashi, Masao; Tadaki, Ken-ichi; Kashikawa, Nobunari; Onodera, Masato; Shimakawa, Rhythm; Kodama, Tadayuki; Tanaka, Ichi; Forster Schreiber, N. M.; Kurk, Jaron; Genzel, R.
The Astrophysical Journal, Volume 877, Issue 2, article id. 118, 10 pp. (2019)
自己紹介:天文科学専攻在学中。現在はハワイにある望遠鏡を使って研究を行なっている。
物理科学研究科天文科学専攻, D3, 竝木茂朗