対談 観山正見 広島大学特任教授(3/3ページ)

天文学者は話芸達者 コミュニケーション活動は研究活動理解への第一歩

岡田 現在、国は緊縮財政の流れを受け、科学研究費補助金などの研究費の配分に関しては、役に立つもの、出口に近いものにより重点的に予算配分していこうとしています。天文学は基礎的な学問である一方、装置開発等で企業と組めるなど、出口に近くはないが役に立つというメリットがありますね。予算獲得面では恵まれているかもしれません。いわゆる基礎研究や、外見には趣味的にも見えるような文科系の研究などをしている人からは、そういう目で見られることもあり得ます。
私は、全ての研究は最後にはつながっていると考えています。1つ1つの研究のみを近視眼的に見て、そんな研究は必要ないと言うのではなく、全分野の土壌をきっちり育てていくことです。どこで咲くか分からない花を育て、どうつながるか分からない研究を支援することが重要でしょう。出口のみを求めず、多様なスタンスでサポートし続けないと、学問の発展が止まり、日本社会への負の影響が広がってしまうのではないかという危機感を強く持っています。先生、その辺はいかがですか。

観山 長野県・野辺山に大きな望遠鏡を設置し、ハワイにはすばる望遠鏡、南米・チリにはアルマ望遠鏡をつくり、今度はTMT(Thirty Meter Telescope)という30メートル望遠鏡に取り組んでいるので「天文学だけ景気がいいじゃないか」と最近はよく言われます。

岡田 そういうこともあるでしょう。

観山 確かにありがたいことですね。他分野に比べ、私たち天文分野が自慢できるのはパブリックリレーションです。日本には天文学ファンが多く、講演会にもたくさんの参加者に来ていただいています。特に、すばる望遠鏡ができてからは、解像度の高い美しい写真をお見せして好評を博しています。講演会開催の機会も多いものですから、天文台の職員は話が上手になりますね。出前授業で小学校へ行くときなどは、天文台側で費用を負担して話に行くこともあります。
「こういうすごい写真が撮れます」「こんな面白いことが判明した。次には生命の痕跡が見えるかもしれません」などと、地道にコミュニケーション活動を続けてきた成果として、お金は掛かるけれども、われわれは結構面白いことを研究していると皆さんに理解していただけているのではないかと思います。

岡田 1つの文化を発信するという、広報活動は重要ですよね。

観山 文系の研究者にはお話が上手な方も多いので、もっと学外へ出て行き、例えばどういう思想がどのように重要であるかなどを発信されれば、もっと研究活動に理解が得られ、研究費も配分されやすくなるのではないでしょうか。
そういう意味で、これからは総研大の学生も、発信する機会は多くなると思います。さまざまな場で、自分たちの研究を外部の人に分かりやすく発信できるようにしていく教育も大事です。場慣れの要素も多分にあるので、いろいろな所に行くのもいいでしょう。自分の思いをうまく表現できることは、今後、日本でも、世界でも重要となるテーマです。

超一流の恵まれた教育環境を利用して、たゆまずチャレンジを

眞山 最後に、総研大に期待することや、総研大の在学生や受験生へのメッセージをお願いします。

観山 一言でいうと、チャレンジしてほしいと思います。総研大は、学生数と教員を比較すると、他大学に比べて、著しく先生の人数が多くなっていますから、そういう恵まれた環境をうまく生かしてほしい。普通のマスエデュケーションではなく、本当に1対1、あるいは1対多となるぐらいの研究者がいます。
ノーベル賞受賞者の大隅先生は、あえて人が全然手掛けていない分野に取り組んだそうです。成功している人は、そういうところで頑張っているわけですね。そういう意味でも、研究というのはそもそもチャレンジです。
繰り返しますが、施設1つ取っても非常に充実した教育機関なので、ぜひともチャレンジしてほしいということを訴えたいと思います。受験生に対しては、そういうチャレンジを可能にする大学院が総研大であるということです。

岡田 ありがとうございます。環境の点で、これ以上の大学はないと自負しています。先生方の質・量、設備、そして雰囲気もいい。学生はそこを自覚して、積極的に活用する姿勢がとても大事だと思います。
観山先生、本日は、ありがとうございました。

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