対談 観山正見 広島大学特任教授(2/3ページ)
アストロバイオロジーの開設で地球外生命体の発見という人類の夢をつなぐ
眞山 生物の話が出てきたところで、観山先生が自然科学研究機構の理事をされていたとき、アストロバイオロジーセンターが目指していた研究や、今後の教育体制の方向性についてお伺いできればと思います。
観山 アストロバイオロジーというのは、非常に新しい学際的な分野です。当時、機構長だった佐藤勝彦さんも、同分野の推進にはずいぶん熱心でしたし、私も同じ思いを強く持っていました。
最近は、太陽系以外にたくさんの惑星系が見つかっていて、すでに千個を超えました。地球のように、水が液体で存在するような惑星もあるようです。ただし、その惑星が太陽に相当する天体から適当な距離にあることを根拠にした想像でしかありませんが。
岡田先生がご専門の生命科学でも、水は大変重要ですよね。天文学者は、水の存在などの環境さえ整えば生物はすぐにでも生まれるのではないかと単純に考えますが、生物学者は、そんな簡単には行かないとおっしゃいます。環境が整えられたといっても、地球上の生命が持つ、極めて緻密かつ複雑な状況は、よほどいい環境と偶然が重なって形成されたものだと説かれます。
われわれは、地球と同じように、オゾンを大気の中に見つけたら植物があるに違いない、メタンがあれば動物がたくさんいるに違いないと考えます。生命がたくさん繁殖していると、
その惑星の大気を変えてしまいますから、そういうバイオマーカーを調べることで生命が存在するかどうかを私たちは見ようとしているのです。
岡田 なるほど。実際にバイオマーカーが見つかっているわけではないということですね。
観山 まだですね。見つかれば大発見です。今後新しい望遠鏡が完成すれば人類の夢の1つがかなえられる可能性があります。
天文分野を通じて学際的な研究体制を構築、画期的なパラダイム革新を追究
観山 生物学関係や惑星科学関係などの研究者が集まることで、どうすれば地球以外の惑星に生命を発見できのるか、どのように地球と異なる環境下の生物は進化するのかといったテーマについて、チャレンジングかつ学際的研究が進められるようになり、ことのほか面白い展開になると私は確信しています。今後30mの大きな望遠鏡をつくろうという動機としては、主に太陽系外に生命の存在を確認することであり、その活動に関係する分野の人も巻き込んでいきたいと考えています。
近年私が強く感じるのは、学問というのは、個々の分野を突き詰めることも必要ですが、違う分野と融合することで新しいパラダイムが生まれる可能性が高まることです。総研大の建学の精神にも分野の融合が説かれています。
岡田 本学が目指すところです。
観山 自然科学研究機構は総研大の基盤機関をまとめる機構でもあり、国立天文台をはじめ、核融合科学研究所、生理学研究所、基礎生物学研究所、分子科学研究所などで構成されているので、融合するような場をぜひつくろうと、私は数年にわたって準備活動を続けました。
最初は、一般の方も来場するシンポジウムを開いたり、研究者同士が夕食を取りながら気楽に情報交換する懇話会などの活動から始めました。文部科学省も新分野を支援するような方向にあると聞き、ここはチャンスとばかりに、アストロバイオロジーセンターを開設することができました。
現在の課題は、先ほども言いましたように、生命系の人に何とか参加してもらいたいということです。お付き合いしてくださる先生方は結構いるのですが、今はお付き合いにとどまっています。ある先生からは、例えば地球外生命の物的証拠を持ち込んでいただければ、いくらでも研究しますが、そうでなければ何をどう研究していいのか分からないから何も言えないと言われたのです。
岡田 おそらく、そうだと思います。議論はできるけれども、実際に仕事ができるかという問題ですね。
バイオマーカーと言えるものが見つかる、あるいは実際に観測できなかったとしても、ある根拠がかなり大きな確率で存在すれば、現実的な研究活動が想定できます。例えば、地球上の生命も別の惑星から来たという話があるぐらいですから、地球に飛来する隕石や、宇宙に飛んでいって採って帰ってくる物質の中に有機物があるかどうかを分析するようなことです。
自然科学研究機構が、分野の違う人が集まった組織をつくり、新しい分野をつくっていただけるのはありがたいことです。総研大の教育制度にも、そのような方向を目指す人を産み出す趣旨で制定した分野横断型の教育プログラムがあります。アストロバイオロジーの教育システムもつくっていただければ、若い人たちにも興味を持って研究活動を続けていける環境が得られるのではないかと思います。
アストロバイオロジーセンターは分野融合教育のさきがけ
観山 そこで1つ、学長にお願いがあるのです。総研大は研究所を基盤機関としていますが、自然科学研究機構のつくったアストロバイオロジーセンターは機構直属で研究所から独立しており、総研大と直接的な関係はありません。その辺をフレキシブルに考えていただき、おそらく若い人でそういう教育を受けて勉強したい人もおられると思いますので、併任などの扱いにしてもらえないでしょうか。
岡田 一応、専攻は基盤機関に置かれておりますが、専攻と専攻をつなぐような教育プログラムは、来年度の総研大の新しい取り組みの中で可能となっていくでしょう。アストロバイオロジーセンターによる教育実践の積み重ねがあれば、近い将来、基盤機関のない、あるいは依存しない専攻なども考えることができるような時代が必ずやってくると思うのです。
取りあえずは、専攻をまたぐような分野横断型の教育プログラムとして打ち立てていただき、そこでは単位も出せるようにする。現段階では、そこだけの専門、専攻の学生とまではできませんが、どこかの専攻に属しながら単位を取っていただくことは可能です。
観山 ぜひお願いします。先ほども言いましたが、総研大は、愛知県・岡崎地区は別にしても、研究所が地理的にばらばらに分かれていて、普通の大学のように同じキャンパス内にあるわけではなく、交通アクセスがあまりよくないこともあります。
特に若い人たちは、それぞれの専門分野で、深く学問研究を突き詰めていくことも重要ですが、ほかの分野と連携して新しい分野をつくっていくのも世界的な流れになってきています。違う分野同士が共同提案して採択される総研大のファンドをつくるとか、何かエンカレッジするようなものがあると、もっといいかもしれませんね。
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