2024.03.13
【プレスリリース】アザラシのギザギザの歯は、動物プランクトンを食べる割合と関連していた
石原 有乃 1 ,2 、 宮崎 信之 3 、 David J. Yurkowski 4 、 渡辺 佑基 1,2,5,6
1 総合研究大学院大学 複合科学研究科 極域科学専攻、
2 総合研究大学院大学 先導科学研究科 生命共生体進化学専攻、
3 東京大学 大気海洋研究所、
4 Arctic and Aquatic Research Division, Fisheries and Oceans Canada、
5 国立極地研究所、
6 総合研究大学院大学 統合進化科学研究センター
【研究概要】
アザラシの歯を見たことはありますか?犬の犬歯のような円錐状の歯を持つ種もいれば、中には非常にユニークな、ギザギザが発達した櫛のような歯を持つ種がいます。では、円錐状の歯を持つ種と、ギザギザした歯を持つ種の違いは何なのでしょうか?ユニークなギザギザの形にはどのような役割があるのでしょうか?
本研究では、13種のアザラシの骨格標本を用いて歯の形態を定量化し、しばしば動物の歯の形態に影響を与える、食べ物との関連を調査しました。そして、動物プランクトンを食べる量が多い種ほど、歯のギザギザが発達していることを明らかにしました。これは、水中で小さい動物プランクトンを食べる上で、ギザギザした形態が機能的である可能性を示しています。
【研究の成果】
動物の歯の形態は、しばしば彼らの食べ物を反映しています。水中で餌を食べる哺乳類では、オキアミ(動物プランクトン)を大量に食べる、カニクイアザラシ(Lobodon carcinophaga)の例が良く知られています。カニクイアザラシは複雑なギザギザした歯を持っており、この歯の形態はオキアミを口内に留めたまま海水を排出する、篩の役割を担っていると考えられています。更に、最近の研究から、バイカルアザラシ(Pusa sibirica)という種も大量の動物プランクトンを捕食しており、彼らも特徴的なギザギザした歯を持つことが示されました。このように、多くの行動データや歯の見た目から、歯の形態と動物プランクトンの捕食の関連が示唆されてきましたが、その繫がりを定量的に示し、アザラシ全体での傾向を明らかにした研究はありませんでした。
本研究では、バイカルアザラシとその近縁種を中心に、国立科学博物館所蔵の13種のアザラシの骨格標本を用いて、ギザギザ具合を含めた歯の形態を定量化し(図1)、動物プランクトンの捕食量との関係を調べました。大量の動物プランクトンの捕食が報告されているバイカルアザラシは、歯の形態が近縁種に比べて特異的であることが示されました(図2)。更に、歯のギザギザ具合が高い程、動物プランクトンの捕食量も高いことが、アザラシ科全体の傾向として見られることも明らかになりました(図3)。これらの結果は、ギザギザの歯が篩として機能的な役割を果たすのは、カニクイアザラシに限ったことではなく、動物プランクトンを捕食する多くのアザラシに共通していることを示しています。
今後は、このような歯の形態を持つことが口元の動きや体全体の動きにどのような影響を与えるのか、そしてギザギザした歯を持つアザラシにおいて、魚を食べる場合と動物プランクトンを食べる場合とで、捕食効率は異なるのか等について調査していきたいと考えています。
【著者情報】
- 石原 有乃(総合研究大学院大学 先導科学研究科 生命共生体進化学専攻/5年一貫制博士課程2年)
- 宮崎 信之(東京大学 大気海洋研究所/名誉教授)
- David J. Yurkowski(Arctic and Aquatic Research Division Fisheries and Oceans Canada)
- 渡辺 佑基(総合研究大学院大学 統合進化科学コース / 統合進化科学研究センター 教授)
【論文情報】
【研究サポート】
本研究は国立科学博物館 筑波研究施設の田島木綿子研究主幹とその研究室メンバーの方々にご協力頂き、骨格標本の測定を行いました。
また、本研究はMEXT科研費(09460086)とJSPS科研費(04041035, 07041130, 09041149, 22K21355)の助成を受けて行われました。
【問い合わせ先】
- 研究内容に関すること
石原 有乃(総合研究大学院大学 先導科学研究科 生命共生体進化学専攻/5年一貫制博士課程2年)
電子メール: [email protected] - 報道担当
総合研究大学院大学総合企画課 広報社会連携係
電子メール: [email protected]