2017.05.26
神奈川新聞掲載コラム 永山國昭
スマホ顕微鏡を発明
葉山本部
総研大名誉教授・前理事
永山 國昭(ながやま くにあき)
総合研究大学院大学前理事。同名誉教授。東京大学理学系大学院修了(理学博士)。NMR(核磁気共鳴)や電子顕微鏡などの物理計測法の原理的開発を通じ生物の分子・細胞レベルの構造を研究してきた。
「生物も人間も地球も宇宙も所詮は小さくてちっぽけな細胞からできている。その小さな細胞が何億個にも集まって生きているのが私たち人間なのだ」
高校生が書いた授業レポートの言葉に、ふと手が止まった。一体どのような授業が、生徒たちからこの言葉を引き出したのだろうか?
その授業を担当したのが、総研大理事の永山國昭先生だ。通称、「スマホ顕微鏡」の生みの親でもある。スマホ顕微鏡は、小さなレンズのキットを装着すればスマートホンが顕微鏡に変身する発明で、誰でも手軽に扱うことができる。それを使って「小さなもの」を観察することが、永山先生の授業というわけだ。使い方のコツをあっという間に掴んだ生徒たちは、次に見るのはこれ、その次はあれ、とどんどん好奇心を膨らませていく。理屈は必要ない。小さなものを見て、知ることが驚きと感動、そして学びにつながることは、生徒の反応を見れば一目瞭然だ。
永山先生の言葉を借ると、「小さい」ことは生命にとっての基本。私たち自身も、細胞という小さな粒の集まりでできている。地球上の生物種の99パーセントは人間より小さい。中でも微生物たちは高山から海底、さらに体内まで広く分布している。しかし普段、直接目で見ることのできない、これら小さなものの存在を、私たちは忘れがちだ。肉眼で捉えられる世界は、確かに大きいが狭い。冒頭で紹介した言葉は、先生が生徒たちに伝えたメッセージの引用だそうだが、生徒たちはレポートの締めくくりにこの言葉を選んだ。小さいものを見る授業が、広い世界をとらえる視点を育てている、そう感じることができた。
注釈)人間の体は、約36兆個の細胞からなる
(協力=科学コミュニケーター・西岡 真由美)
このコラムは2016年6月~2017年5月まで24回にわたり神奈川新聞にした
連載「総研大発 最先端の現場」に一部加筆・修正(写真の差し替え)をしたものです。