第3回(2015年1月15日)

Yasu通信

新しい問題を発掘し、新しい課題を解決できる研究者を目指そう

Yasu通信 第3回(2015年1月15日)

総研大生の皆さん、新年明けましておめでとう。

現在、国立大学は3年間の「大学改革加速期」のまっただ中にあり、本年4月からはその最終年度に入ります。国は、厳しい財政状況や少子高齢化、そしてグローバル化の中での新興国の台頭などの困難の中で、天然資源に乏しいわが国ではサイエンスによるイノベーションを国力の源であると考えています。
そのために大学には、課題解決型の人材の育成が強く期待されています。一方、学術振興会学術システム研究センターの黒木登志夫氏(元岐阜大学長)は、これまでノーベル賞の対象となってきた研究は、誰もが重要だと思っている課題を解決した研究よりも、誰もが重要とは認識していないときに一人で進め、あとでその重要性が発見された研究の方が多いと、彼の著書「落下傘学長奮闘記」で指摘しています。
即ち、学術的には、基盤的研究による新しい問題の発掘がとても大切であり、これが人類の文化を高め、人々の心を豊かにし、時としてその中から国民生活や産業の革新をもたらすものも生み出されるということなのです。
そこで、総研大では2015年度からの教育改革の前提としての、総研大がめざす育成人材像として、新たにその点を踏まえて、「高度専門性と総合性を兼ね備えた新問題発掘型・課題解決型研究者」を掲げることにしました。

そのような研究者を育成するために、総研大では総合教養教育と専門基礎教育を全学教育プログラムとして、しっかりと実施する必要があります。そのようなものとして、前者については全入学生を対象とした合宿型総合教養教育「フレッシュマンコース」を、後者については5年一貫制学生(主として全二年次生)を対象とした合宿型専門基礎教育「葉山コース(仮称)」を用意したいと考えています。
新入生や5年一貫制二年次生以外の皆さん方の参加ももちろん大歓迎です。いずれも数日間の合宿で行います。
合宿で行う意義は、集中的に学べることの他に、日頃は別々のキャンパスや少人数の研究室でバラバラになりがちの学生達が、集まって親しく交流をすることによって、友人や相談相手を得ることができる点にもあります。
新しい問題を発掘し、新しい課題を解決するためには、これまでとは異なる発想が要求されますので、1つの専門分野を越えた学識の修得が必要となります。
それゆえ、「葉山コース(仮称)」では、参加者全員が2つ以上の分野に関して、(例えば、学問やその対象のはじまりと進化・歴史などのように)時間軸を含めた4次元的理解ができるようなプログラムを、全学の知恵を絞って鋭意検討しているところです。合宿を通じて、異なる分野からも友人を得ることができるでしょうから、そのつながりは研究者となった将来において貴重な財産となるものと思います。

学問は、先にも述べたように人類の文化を高めて心を豊かにし、人々の生活や産業の向上にもつながるという社会的・公共的価値を生み出すと共に、平静時でさえ体全体のエネルギーの約20%を使う脳活動を高めて、皆さん自身の健康を保つのにも役立ちます。医師でもある私は、興味ある対象への知的活動は日常生活のクオリティを高めるばかりでなく、その継続は遠い将来の老人性認知症発症の防止の一助にもつながるなど、多くの個人的価値ももたらすものと確信しています(注1)。新しい問題を発掘して、新しい課題を解決できる研究者をめざして、日々学習と研究に精進・努力されることを期待しています。

では次回まで。

付1)前回、論文・著書として研究成果を出版することの重要性と、それらに総研大SOKENDAI名を記載いただく必要性について述べましたが、今回、その英文表記名が変更されたのでお知らせします。
これまでは、「The Graduate University for Advanced Studies (SOKENDAI)」でしたが、それを逆にして「SOKENDAI (The Graduate University for Advanced Studies)」と改め、場合によっては「SOKENDAI」のみでもよいでしょう。

付2)総研大の年報に収録する情報として、2014年に総研大生の皆さんが著者となって出版された論文・著書(英文・和文を問わず)のリストを作成しますので、近くその情報提供の依頼が届くと思います。
その節は、協力下さるようお願いします。
また、総研大生の皆さんが著者の一人となっていて、所属に総研大名が明記されている論文の出版費を、10万円まで補助する学融合推進センター「論文出版費補助」制度も活用して下さい。

注1)老人性認知症の防止には、この知的活動習慣以外にも、禁煙、食生活改善、運動習慣、対人接触、良質睡眠などが重要です。

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